岩石の電気伝導度


電気伝導度・比抵抗

 地球上の土や岩石は電気を通す性質を持っているので、地球磁場・電場の変動の大きさは、地球自体の電気の通りやすさによって変化する。この物質中の電気の通りやすさを「電気伝導度」と呼ぶ。ここでは電気伝導度の定義を解説しよう。また、岩石の電気伝導度がどのような値なのかを見てみよう。そして、どのような要素が岩石の電気伝導度を決めているのか考えてみる。なお後ほど解説するが、地球上の磁場や電場の大きさを測定すると、逆に地球内部の電気の通りやすさ分布=電気伝導度構造を得ることができる。したがって岩石の電気伝導度の特徴を知っておけば、電気伝導度構造が何を意味するのか?どのような役に立つのか?を理解できるだろう

 さて、岩石の電気の「通りやすさ」は「電気伝導度」というパラメータで示される。時には電気の「通りにくさ」を示す「比抵抗」というパラメータでも示される。比抵抗・電気伝導度について整理しよう。物質(上図)の電気抵抗R(Ω)は長さL(m)に比例し、断面積S(m^2)に反比例するため、次式のように表現できる。

この定数ρは物質に固有のパラメータであり、”電気の通りにくさ”を示す。このρは「抵抗率」あるいは「比抵抗(resistivity)」と呼ばれており、単位は「Ωm」である。

一方、”電気の通りやすさ”は比抵抗の逆数で表現される。これは「電気伝導度(conductivity)」と呼ばれており、次式(σ)で表現される。単位は「S/m」である(Sはジーメンスと読む)。物理探査学の世界では比抵抗を用いることが多いが、地球物理学の世界では比抵抗と電気伝導度の両方が混在して使用されているので注意が必要である。


様々な岩石の電気伝導度

 岩石の電気伝導度は、その種類や状態によって、非常に大きく変化することが知られている。下図は、様々な種類の岩石に関する電気伝導度・比抵抗をまとめたものである(図中番号は参考論文を示す)。なんと電気伝導度の変化は8桁以上に及んでいる。岩石に関する様々な物理・化学パラメータの中でも、これだけ大きく変動するものは少ないだろう。


 図中の赤色は野外調査結果から求められたものである。青色、緑色はそれぞれ室内実験および理論から求められたものである。この図から見られる特徴は以下のようである。
すなわち、同じ種類の岩石でも取りうる電気伝導度の範囲は大きく、また違った種類の岩石でも同じ電気伝導度を示しうるといえる。それではどのような物質を含むと、岩石は導電性を示すのであろうか?

岩石の電気伝導度を決める成分

 岩石の電気伝導度を左右する主な要因は、岩石の種類そのものではなく、ある特定の物質=電気を通しやすい物質(導電性物質)の含有量のようである。岩石の主要な構成要素(例:ケイ素)は、岩石中の導電性物質と比較すると、圧倒的に電気を流しにくい性質を持っている。つまり、岩石の電気伝導度は、岩石の種別との対応が希薄であり、それよりもむしろ、岩石中の導電性物質に左右されるのである(下図)。特に岩石中の水分(間隙水)、部分溶融といった液体成分や、電気を通しやすい鉱物(グラファイトや金属粒子)などの存在が、電気伝導度を決定づけている。


岩石の電気伝導度を決定する主な要素

 例えば花崗岩を用いた室内実験の結果2から、主に3つの特徴が分かっている。
  1. 間隙を水で飽和状態にした花崗岩は、乾燥状態と比較すると温度700度では3桁、400度では6桁、室温では10桁ほど高いの電気伝導度を示す。
  2. 岩石中に結晶水として取り込まれている水の量は電気伝導度には影響しない。
  3. 塩濃度が高い場合(>0.1 mol NaCl)は、間隙中の流体圧の大小が電気伝導度にあたえる影響は無視できる。
特に2の結果から、地殻内の岩石の電気伝導度には、「自由水」としての間隙水の影響が大きいことが示唆される。同様に、岩石中の導電性物質は、岩石全体の電気伝導度に大きな影響を与える。

 このような電気伝導度の特性は、「岩石の電気伝導度が分かれば、岩石の種類に関係なく、間隙水などの導電性物質の量を求めることができる可能性がある」ということを示唆している。一般に、他の物理探査法で求められる岩石の物性値(地震波速度、密度、磁化率など)は、岩石の鉱物部分(マトリックス)の物性と、間隙水などのマトリックス以外の物性がミックスされて決定されることが知られている。しかし電気伝導度は間隙水の量に強く左右される傾向があり、しばしば「電気探査・電磁探査は地下の液体の存在に敏感である」と言われる所以となっている。


参考資料

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