流体と電気伝導度


乾燥岩石を用いた室内実験による電気伝導度プロファイル(Labo Data)と、
野外での電磁気観測の結果得られた電気伝導度構造(Field Data)の比較1

地殻の岩石の電気伝導度

 野外観測から求められた地殻浅部の電気伝導度は、室内実験よりも高い値を示すことが知られている。例えば、深さ20-30kmよりも浅い部分では乾燥岩石を用いた室内実験の結果よりも高い値をしめすが、それより深いところでは概ね一致する(上図1)。このことから、地殻(特に上部)では、岩石中に間隙水が多く含まれており互いに連結しあっているために、間隙水中のイオン伝導が岩石全体の電気伝導度を上昇させるのであろうと考えられている。また地下30kmより深いところでは、高い圧力によって岩石中の隙間(間隙)が閉じていて、その中に含まれる水=間隙水の量が少なく、さらに互いに孤立した状態であるため、岩石中の固体部分での電子伝導が電気伝導メカニズムとして卓越すると考えられる。なお上図は楯状地での例である。古い大陸地殻である楯状地での電気伝導度の観測値は島弧と比較すると2~3桁ほど低いようである。

イオン電導と電子伝導

 このように高電気伝導度の要因となりうる、地殻内の自由水やマグマ(メルト)を総称して「地殻内流体」と呼んでいる。物質中の電流の流れやすさは主に、固体の中の電子の流れ(電子伝導:Electronic conduction)と、流体の中のイオンの流れ(イオン伝導:Ionic conduction)に支配されている。岩石は通常、固体と流体の混合物なので、岩石の電気伝導度も主にこの2つの伝導メカニズムにより決定される。

 下図はその典型的な例である2。岩石に熱を与えていき、部分溶融(メルト:Melt)ができるまで高温状態にした場合の電気伝導度の変化を示している。この実験では、1030度以下ではメルトは発生していない。この場合は温度上昇に伴って電気伝導度は徐々に増加する。1030度以上でメルトが出来始めると、電気伝導度はこれまでの上昇傾向と比較して急激に増加する(点線がメルトがない場合の電気伝導度変化)。1070度以上(約8%以上のメルト率)ではメルト間の連結度も増加し、これに伴って電気伝導度は急増し、メルトのない場合より1~2桁ほど高い値を示す。


岩石が部分溶融を生じる際の電気伝導度の変化(Partzsch et al., 2000に追記)

 同様の結果は、氷を用いたアナログ実験でも認められる。Watanabe and Kurita(1993)3によれば、塩化カリウム水溶液の氷を暖めた場合、氷の温度がソリダスを越えると、氷の電気伝導度は約2桁大きくなると報告されている。

 このように岩石がメルトを含まない場合は電子伝導が支配的であり、岩石の電気伝導度は温度に伴って緩やかに変化する。一方、メルトを含む場合はイオン伝導が支配的であり、メルトの量や結合度によって電気伝導度は大きく変化する。

アーチーの式

岩石の電気伝導度における流体(部分溶融・間隙水など)の影響を定量的にモデル化する試みは古くからなされている。有名な経験式としては、砂岩などの堆積岩に対して適用されるアーチーの式(Archie's Law; Archie, 19424)があげられる。


σeff :岩石全体の電気伝導度
 σfluid:流体の電気伝導度
φ:間隙率
  (※水飽和率100%の場合)

ここで、mは間隙の結合度に関連したパラメータ(膠結係数)で、m=1は間隙が完全に連結している状態を表しており、mの値が大きいほど連結度は低くなる (Cについては後述)。砂岩ではC=0.5~2.5、m=1.3~2.5の値をとることが知られている5。これを図化すると下のようである。

アーチーの式から得られる間隙率(Porosity)と岩石の電気伝導度(Conductivity)
の関係。流体の電気伝導度が1S/mの場合。膠結係数を変化させている。

 アーチーの式は、堆積岩以外の岩石でも成立することが知られている。たとえばアーチーの式は結晶質岩にも適用可能であり、花崗岩の場合はC=1, m=2という値が報告されている6。また岩石が部分溶融(マグマ)を含む場合でも成り立っており、C=0.73±0.02、m=0.98±0.01という値が報告されている7



様々な岩石の間隙率と電気伝導度の測定結果(大気圧、室温下)。
林ほか(2003)8による結果に加筆。

 別の実験例として、上の図には、花崗岩(Granite)、砂岩(Sandstone)、凝灰岩(Tuff)など様々な種類の岩石を32500ppmのKCl溶液で飽和させた場合の岩石の電気伝導度と間隙率の関係を示している8。岩石の種類が異なるためばらつきはあるが、両対数グラフにおいて概ね直線的な関係になっており、アーチーの式に従っていることが分かる。このことから、様々な種類の岩石について、岩石の電気伝導度はアーチーの式と整合的であるといえる。


参考資料

  1. Lastovickova, M., A review of laboratory measurements of the electrical conductivity of rocks and minerals, Phys. Earth. Planet. Inter., 66, 1-11, 1991.
  2. Partzsch, G.M., F.R. Schilling and J. Arndt, The influence of partial melting on the electrical behavior of crustal rocks: laboratory examinations, model calculations and geological interpretations, Tectonophys., 317, 189-203, 2000.
  3. Watanabe, T. and K. Kurita, The relationship between electrical conductivity and melt fraction in a partially molten system: Arche’s law behavior, Phys. Earth Planet. Inter., 78, 9-17, 1993.
  4. Archie, G. E., The electrical resistivity log as an aid in determining some reservoir characteristics, Trans. Am. Inst. Min. Metall. Pet. Eng., 146, 54-62, 1942.
  5. 物理探査学会, 図解物理探査, 231 pp., 1989.
  6. Brace, W. F., A. S. Orange and T. R. Madden, The effect of pressure on electrical resistivity of water saturated crystalline rocks, J. Geophys. Res., 70, 5669-5678, 1965.
  7. Roberts, J. J. and J. A. Tyburczy, Partial-melt electrical conductivity: Influence of melt composition, J. Geophys Res., 104, 7055-7065, 1999.
  8. 林 為人・廣野哲朗・高橋 学・伊藤久男・杉田信隆,掘削コア試料を用いた岩石の比抵抗と地震波速度の測定について, 物理探査, 56, 469-481, 2003.