電気・電磁探査の基礎
電磁誘導の実験(動画)。詳細は下記を参照。
地球の中の電気の通りやすさを どうやって調べるのか?
地球内部の電気の通りやすさ=電気伝導度の分布(電気伝導度構造ともいう)を調べるには、大きく分けて2種類の方法を用いる。
- 電気探査:地面に人工的に電流を流して、電気の流れやすさを調べる探査法
- 電磁探査:電磁誘導を利用して、電気の流れやすさを調べる探査法
ここではまず電気探査と電磁探査の原理について簡単に説明を行い、その後で電磁探査の代表例であるMT法について詳しく説明する。なお、「電磁探査は(広義の)電気探査に含まれる」とする教科書もあるが、ここでは電気探査と電磁探査に分けて紹介する。
電気探査とは?
電気探査とは、地表面などから地中へ電流を流し、そのときの電流と電圧を測定することによって、地下の電気伝導度を求める物理探査の1つである。テスターを用いて電子部品の抵抗を測定することと類似している。このとき、下図のように電流電極間隔を広げれば広げるほど、電流は地下深くまで到達する。
つまり…
- 電極間隔が狭い=地表面~地下浅部までの平均的な電気伝導度が分かる。
- 電極間隔が広い=地表面~地下深部までの平均的な電気伝導度が分かる。
この性質を利用して、電極間隔を段階的に広げていくことにより、深さ方向の電気伝導度分布を知ることができる。ちなみに電極には金属棒を使用し、電源としてはカーバッテリーやAC電源を利用する(上の漫画にあるような乾電池は通常は使いません)。また実際に地中に流す電流は直流ではなく交流で、周波数は数Hz程度(後述する表皮深度が十分深くなるような低い周波数)、この時の電圧は数10~数100Vである。
実際の電気探査では電流を流す電極(電流電極)と、電位を測定する電極(電位電極)は下図のように分ける。電極の接地抵抗は数100Ω~数kΩ(※金属棒1本あたり)と高いため、上図のように電流電極と電位電極を共通にすると接地抵抗の補正が必要となるからである。下図の場合は電位差計の入力インピーダンスを高くすることで接地抵抗の影響を低減することができる。
電気探査の概念図(ウェンナー電極配置)
一般に電極4本を用いた電気探査法を「4極法」と呼ぶ(他に2極法、3極法などもあり)。また図のように4本の電極間隔(a)が等しいような電極配置を「ウェンナー電極配置」と呼び、このような配置を用いた電気探査を特別に「ウェンナー法」と呼んでいる。ウェンナー法の場合は、大地の平均的な比抵抗(見掛け比抵抗)を次式によって求めることが可能である。電流と電圧の関係はオームの法則(V=RI :
Rは電気抵抗)に基づいており、次式はオームの法則から導かれている。このときの探査深度の目安として、電極間隔が利用される(むろん真の探査深度は地下構造モデルを求めないと分からない)。
ρa : 見掛け比抵抗値(Ωm)、I : 電流値(A)、V:電圧値(あるいは電位差値、V)
電気探査は、地下浅部を探査する際には強力なツールであり、地下水調査などによく利用されているが、地下深部=例えば深さ1kmを探査する場合はケーブルを3km程度、深さ10kmを探査する場合は実にケーブルを30km程度に渡って設置する必要があり、深部探査には向いていない。一方、電磁探査はそのような長いケーブルを必要とはしないため、近年は陸上や海底で盛んに用いられている。以上の詳細については、下記の資料1,
2を参照いただきたい。
電磁探査とは?
電磁探査とは、広義には、地中を流れる地電流と地磁気の相互作用を利用した物理探査法の総称である。"電磁気探査"とも呼ぶ。近年では特に、電磁誘導を利用して地下の電気伝導度分布を求める電磁探査が主流である。
「電磁誘導」とはどのような現象だっただろうか?中学生・高校生の頃に習った知識ではあるが、簡単におさらいをしよう。
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写真のように、コイルと磁石を用意する。コイルに流れる電流はパソコンの画面に波形として表示される。(PICO Technology製ADC100を使用)。 |
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コイルに電流が流れる。
※クリックで大きい図を表示。
【動画(AVI形式、16MB)はこちら 】
※ページ上部のYoutubeの動画よりも鮮明。
※磁石が動いているときだけ電流が流れていることに注意! |
このように磁石を移動=磁場が変化すると、導体(電気を通す物質:ここではコイル)には電流が流れる。この現象を電磁誘導と呼んでいる。地球は有限の電気抵抗を持つ導体なので、地球上で磁場が自然に変化したり、人工的に変化すると、地中や海中には誘導電場が発生する。(※コイル=地球、磁石=地球磁場、誘導電場=地球電場)
誘導電流の大きさは、導体の電気伝導度が大きいほど大きくなることが知られている。つまり磁場変化の大きさと誘導電流の大きさから、導体の電気伝導度を知ることが可能である。地球の場合も同様に、地上や海中で地磁気変化と電場変化を測定することによって、地球の電気伝導度を知ることができる。これが電磁探査の基本原理である。
電気探査では直流電流を仮定してオームの法則を利用しているが、電磁探査では交流の電磁場を扱うため、基本原理はマックスウェルの電磁方程式に基づいている。詳細は後述する。
参考資料
- 物理探査学会, 図解物理探査, 239pp., 1989.
- 物理探査学会, 物理探査ハンドブック, 1408pp., 2000.