地殻の電気伝導度構造
地震発生帯の比抵抗構造の例1
地震発生帯
※ここでは海底観測だけでなく、陸上での観測結果も紹介する。
地震とは、果たしてどんな場所で起きやすいのだろうか? その謎を解き明かすため、地震発生帯を横切る地下比抵抗構造が近年数多く報告されるようになってきた。そこで共通する特徴は「大きな地震の震源は、相対的に高比抵抗層に位置している」ということである。例えば上図は北海道留萌地方の例である(Ichihara
et al, 2008)
1。星マークは、2004年に留萌南部で起きたM6.1の地震の震源であるが、ここは地下浅部よりも高比抵抗(数10Ωm程度)の層中で起きている。しかも震源のあたりでこの高比抵抗層は盛り上がっているように見える(黄色よりも寒色系の分布を見てほしい)。この盛り上がりは地表の地層傾斜とも整合的である(図)。この測線と並行する2測線ではそのような 特徴は見えない。
この高比抵抗の盛り上がりはどうやら基盤層の盛り上がりを意味するようである。ボーリングデータと対比すると、高比抵抗層は基盤層に相当する。基盤層が部分的に浅部へ盛り上がっている部分が地震活動に影響を与えているようだ。確かにそのような「突起」があればそこに応力は集中しうるであろう。
Ichihara et al(2008)の下図の結果は、2次元構造解析によるものである。彼らはこれ以外の測線でもデータを取得しているので、今後の3次元的な地下構造解析が期待される。
地熱地帯
近年は電磁探査(MT法)による3次元的な地下比抵抗構造のイメージ化が普通になされるようになってきている。ここでは、その先駆例である、鹿児島県大霧地熱地域での例を紹介しよう。
自然エネルギーの一つとして注目されている地熱を用いた地熱発電にとって、地下水(熱水)の分布規模を知ることは重要である。現在、商業規模での地熱発電では、地下深部が高温であるだけでなく、熱水が発する水蒸気を掘削井から取り出し、発電機のタービンを回すことが重要だからである(※)。熱水を多く含む地層は、そうでない地層に比べて電気の通りやすさが異なっていると思われるため、MT法のような電磁探査を行い地下をイメージ化することで、熱水貯留層の規模を知ることができる。
鹿児島県大霧地熱地域における電磁探査(MT法)測点(白丸)3
上図は鹿児島県大霧地熱地域で行われた電磁探査の観測点配置(白丸)である。これらで得られた見掛比抵抗や位相差を入力データとして、3次元インバージョンを行った結果、下図のような地下構造を得ることができた。既存の掘削データと比較すると、どの比抵抗がどのような地層に相当するかを解釈することができる。ここでは深さ1kmより深部の青色(高比抵抗)の部分が熱水貯留層(大霧貯留層、白水越貯留層)に相当している(詳細は下記の参考文献
2および関連URL
3を参照のこと)。
大霧地熱地域の3次元比抵抗モデル(南から俯瞰)3。貯留層が存在する領域 では、変質粘土に富むキャップ層が低比抵抗層として捉えられ、その下の貯留層 は高比抵抗異常を示す。
さらに私なりに解釈をしてみよう。熱水貯留層が高比抵抗を示すのは一見不思議である。熱水自体は冷水よりも比抵抗は低く、また熱水を含む地層自体も周辺よりも間隙率が高いと思われるため、熱水貯留層=低比抵抗層となりそうである。しかし貯留層の上には熱水変質したと思われる粘土層が広く分布しており、これが不透水層として熱水貯留層上部に広がっているようである(なので貯留層が形成されている)。従って「相対的」には、熱水貯留層は「高比抵抗」に見えるのであろう。このような事例は、他の熱水貯留層や、一般的な帯水層でも見られる傾向と言えそうである。このような3次元的な比抵抗構造解析の事例は(本例よりも小スケール、大スケール共に)今後、ますます増えると思われる。
※近年はカリーナサイクルのように、蒸気を発生できない中程度の地熱環境でも発電ができるようになっているが、この場合でも地下から上昇する温水の存在は必要である。
沈み込み帯の3次元地下構造
※一部にマントルも含む
1980年初頭に現れた地震波トモグラフィは、始めは地域的な3次元地震波速度構造の解析に用いられ、1990年頃には全地球スケールでの地震波トモグラフィにまで発展した。その結果、マントル対流に関する知見が得られ、プリュームテクトニクスと呼ばれる地球全体の進化モデルの提案にまで至った。
そしてついにこの日が来た。MT法を用いた比抵抗構造調査により、米国カスケーディア地方の下に沈み込む海洋プレート(スラブ)が3次元的にイメージされたのである。
大規模電磁気観測網(USArray)により捉えられた地下3次元構造4
さらに沈み込むプレートの上の下部地殻やマントルにも複雑な比抵抗不均質が認められる。近年のMT法3次元インバージョンの進歩に加えて、USArrayと呼ばれるアメリカ大陸西側に高密度(~75km)で展開されている地震・電磁気観測網の展開により、このような3次元的な地下比抵抗構造のイメージ化が可能となってきた。
今後は、対象地域のより詳細な地殻・マントル構造調査が進むであろう。また同時に全地球スケールでの電磁気トモグラフィーも盛んになると思われる。地震波トモグラフィーの世界から考えれば、それはあと10年後。そう遠い将来の話でもない。
参考資料
- Ichihara, H., R. Honda, T. Mogi, H. Hase, H. Kamiyama, Y. Yamaya and Yasuo
Ogawa, Resistivity structure around the focal area of the 2004 Rumoi-Nanbu
earthquake (M 6.1), northern Hokkaido, Japan, Earth Planets Space, 60,
883-888, 2008.
- Uchida, T., and Y. Sasaki, Stable 3-D inversion of MT data and its application
to geothermal exploration,Exploration Geophysics, 37, 223-230, 2006.
- http://unit.aist.go.jp/georesenv/result/ten-news/ten-news07/uchida.html
- Patro, P. K., and G. D. Egbert, Regional conductivity structure of Cascadia:
Preliminary results from 3D inversion of USArray transportable array magnetotelluric
data. Geophysical Research Letters, 35, L20311, doi:10.1029/2008GL035326,
2008.