・調査船での船内生活
海洋研究開発機構(JAMSTEC)は世界に誇る海洋調査船を複数隻運用しています。JAMSTECの調査船での研究については他のページに譲ることにして、ここでは調査船での船内生活に関して、簡単に紹介します。ただし船内設備や船内生活の詳細については調査船や調査海域、調査内容によって異なる場合があります。あくまで一般的な紹介とお考えください。またJAMSTEC以外の調査船ではまったく異なる場合があります。
研究調査船に乗船するには?
調査船での船内生活を紹介する前に、まず調査船に乗船するにはどうすればよいか疑問をお持ちの方もおられるとおもいます。調査船に乗るには次の3つのいずれかの場合が多いです。
- 大学や研究所の研究者として、研究をするため
- 大学生や大学院生として、研究(あるいは研究補助)をするため
- 企業から調査機器の支援や点検を行うため
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「船員になり乗船する」という場合ももちろんあります。また洋上の調査機器の運用を専門に行う「観測支援員」になる手もあります(就職先などでお悩みの方、ぜひご検討ください。)
いずれの場合も一般の方々が乗船する機会は少ないですが、JAMSTECでは毎年5月頃に研究所の一般公開をおこなっており、その際には体験乗船が実施されます。ぜひ一度ご経験ください。またJAMSTECの見学時に調査船が着岸している場合は(調査船は出港しませんが)見学できることがあります。見学申し込み時に事前にご確認ください。
船室の設備
調査船毎に異なりますが、1人部屋、2人部屋、4人部屋の3種類があります。各部屋には以下が基本的に備えられています。
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調査船「かいれい」4人部屋の共有スペース
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- テレビデオ、冷蔵庫 、ソファー 、テーブル、洗面台
注:テレビは液晶(地デジ)、ビデオはDVDデッキに変わっているようです(2012年4月)
- ネットワークハブ、LANケーブル、壁掛け時計、掃除機(各階で1つ)
- ベッド(2段ベットの場合あり)、机(共用の場合あり)、本棚(小)
- 引き出し(1~2個/1名) 、ロッカー(1つ/1名:ない場合もあり)
「かいれい」4人部屋の個人スペース
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- 卓上&枕元蛍光灯
- 掛け布団、毛布、ハンガー
- シーツ、枕カバー(2週間に1度もしくは希望時に交換)
- コンセント
(ただし口は少なめ、延長コード持参が吉)
- ライフジャケット、ヘルメット、スリッパ
× 以下のものはありません
- タオル、バスタオル、ドライヤー
- 目覚まし時計、安全靴、軍手
- コップ、歯ブラシ、歯磨き粉、石鹸
- エアコン
(船内一括して温度調整。孔の開け閉めは可)
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服装
甲板での作業時:長袖シャツ(油などで汚れてもよいもの。暑い時は半そででもよいがノースリーブは×)、長ズボン(油などで汚れてもよいもの)、靴(底がすべりにくいもの、安全靴がよい)、軍手、カッパなど雨具。これらは個人で用意します。加えて、船室にあるヘルメットをかぶってください。
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食事・ミーティング時:襟付きシャツ(セータはOK。Tシャツやトレーナでもよいが、寝巻きと間違われない清潔なものを)、ズボン(揺れる船でスカートをはく人はいない)、靴(スリッパは不可)、作業着・作業靴でもよいが、汚れは落とすこと。
普段(部屋の中):自由な格好でよいです。暑い海域にいく場合でも船内は比較的涼しくなっています(特にラボ)。長袖・長ズボンは必需品です。 |
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食事
食事時間は船によって若干異なりますが、たいていは7時半、12時、17時ごろです。船の夕食は早いのです。味ははっきりいって、おいしいです。食べ過ぎ注意です。
ある日の夕食。ちょっと豪華な日でした。デザートつき。
食堂では、コーヒーはセルフサービスで自由に飲めます(夜はインスタントのみ)。紅茶やお茶(ティーバック)もセルフサービスで自由に飲めます。食堂には電子レンジと製氷機もあります。また飲料水(冷水)とお湯は食堂でもらえます(部屋の水は飲料用でない場合あり)。
職員食堂。ご飯は自分で盛り付けます。製氷機は部員食堂にあります。
厨房は一般の乗船者は使用できません(火は使えない)。夜食を持参される方はレンジもしくはお湯があれば調理できるものを持ってきてください。ただし三食の量は大目なので、夜食はたぶん不要でしょう。なお深夜や夜通し作業があるときは、夜食がでる場合もあります。
良心価格(100円)
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JAMSTEC調査船には自動販売機があり、ジュースなどを買うことができます。ただしアルコール類は扱っていません。酒類はあらかじめ購入しておかないといけません。お酒をほとんど飲まない人も少量でよいので買っておくほうがよいでしょう(航海終盤にはたいてい打ち上げパーティーがあるのです。そのときに持っていくものがあるほうがよいです)。お菓子類も同様に少々購入しておくことをお奨めします。
コップや皿・箸は厨房からお借りすることもできますが、持参するほうがよいでしょう。もしも借用した場合は必ず洗って返します。 |
持ち込み飲食物で人気なのは、飲料水です。船内は空調環境なので喉が渇くこともしばしば。また暑い甲板作業がある日もあります。冷たい水が部屋の冷蔵庫に入っていると、ありがたいですね。
風呂・洗濯など
風呂場は男性・女性別々に用意されています。船によっては入浴時間で男性用と女性用に分ける場合もあります。リンスインシャンプーとボディーソープは船に備え付けのものがあります。それ以外は各自で用意します。洗濯機もあります。乾燥機や乾燥室もあります。男女別々に用意されている場合があります。洗剤は粉石けんのみ用意してあります。柔軟剤や酵素入り洗剤などはありません。
(左)洗濯室、(右)風呂場。毎日掃除していただいています。
常備薬や酔い止めは船に用意してあります。ただし、自分にあった薬をあらかじめ持参することをお奨めします。なお船酔いが心配な方は、酔い止め薬(アネロン、ドラマミンなど)と、リラックスできるもの(音楽、ビデオなど)を持参するとよいでしょう。リラックスすると船酔いも楽になります。あるいはその逆に、「この仕事だけはやらねばならない!」という場合は船酔いをしている暇がなくなります(苦)。私自身、乗船してすぐに自分担当の調査作業などある場合は船酔いしませんが、ない場合は1日くらいは軽い船酔い状態です。不思議ですね。一つだけはっきりしていることは、船酔いでは死なないと言うことです(笑)。また船酔いを恥ずかしいと思うこともありません。船に乗っている研究者はどんなにベテランであったとしても、みんなかつて同じ経験をしているのですから!
陸上との連絡手段
まず陸地が見える場合は、お手持ちの携帯電話が大抵使用可能です。陸地から遠いところでは船舶電話(公衆電話)を利用可能です。ただしキャッシュカードが必要です(テレフォンカードでは×)。FAXを送受信することも可能です(ただし船からのFAX送信はできれば公用に限ります)。
注:最近は100円硬貨の公衆電話に変わっているようです。Edyは○、クレジットカードは×だそうな。(2012年4月)
船上と陸地との連絡手段でもっとも活用されるのは電子メールです。乗船後、乗船研究者一人一人に船上での電子メールアドレスが割り当てられますので、これを使います(ただし自由にメールアドレスを作れるわけではありません。既定のものから選びます)。送受信とも無料です。ただし1通あたりの送受信ファイル容量には制限あります(100KBまで)。また私的な内容は控えてください。日中は1時間おきに船上から陸地へ送受信を行っています。ラボの共用パソコン、個人での持ち込みパソコンのどちらからもメールを送受信できます。 |
扉の外から見た船内公衆電話。
プライバシーは守られています。
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なお、陸上のメールを船上に転送することは可能ではありますが、乗船後にメールアドレスが決まること、船上での受信ファイルサイズに制限があることからご遠慮いただきたいと思います。また船上ではメールは使用できますが、WEBページを見ることはできません。
ラボ
どの研究船にもラボ(研究室)があります。おもなラボには以下のものがあります。
- ドライラボ(海底機器等の整備・運用)
- ウェットラボ(生物や海水の分析)
- 岩石ラボ(堆積物や岩石の記載・分析)
- パソコンルーム
- ビデオルーム(潜航時の映像の編集)
- リサーチルーム(ミーティング室)
※これらの機能は調査船により異なります。
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「かいれい」のパソコンルーム
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どのラボにもLANが通っており、船内ネットワーク経由での情報共有が可能です。パソコンはWindows・Mac共に常備されていて、ここからメールを打つことができます。研究者個人が持ち込んだパソコンをネットワークに接続することも可能です。ネットワークプリンターやコピー機もあります(ただし紙資源は大切に)。スキャナーもあります(コピー機が複合機になっている場合もあり)。PCプロジェクターもあるので、船上で研究者向けあるいは乗組員向けのセミナーを行う場合もしばしばです。
娯楽室
リラクゼーション用に娯楽室も用意されています。
畳敷きの和室です。多数のビデオ、DVD、本などが備えられています。船は寝ているとき以外は常に「仕事の場」です。ときにはこれらのアイテムでリラックスするのもよいでしょう。また食堂付近には「ラウンジ」もあります。ラウンジにはソファーなどがあり、またFAX新聞をここで読むことができます。日本近海だと衛星放送が入りますが、外洋に出た場合は貴重な情報源の一つです。その他、以下の施設を供える調査船もあります。
※なおDVD・本の購入は船員さんの私費により実施されています。 |
娯楽室
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楽しい船上ライフ
学ぶときは学び、働くときは働き、遊ぶときは遊ぶ。これが調査船ライフです。メリハリがきちっとしています。作業時の写真は本サイトの別ページをご覧頂くとして、ここでは楽しい船上イベントをちょっとだけご紹介。どの研究船にもラボ(研究室)があります。おもなラボには以下のものがあります。
船が移動している間(回航といいます)は、調査準備やクルーズレポート(調査報告書)の作成を行いますが、時間に余裕があるときはお茶の時間を持ったりします。左は、ある日のお茶の時間。というか、陸地でケーキを買ってもちこんで… そう、Happy
Birthday!お茶会でした。 |
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あるときは、夕日を見ながら話し込みます。馴染みの研究者同士、力を合わせて調査をするときもあれば、陸地では一緒に話も仕事もしたことがない異分野の研究者同志が調査船に乗り合わせる事もあります(陸上の調査と大きく異なる点ですね、陸地でも異分野の合同調査はありますが、調査時期が異なっていたり、宿が違ったりしますから)。
乗船期間は決して長くはないですが、一緒に生活し、作業の合間にいろんな話をすると、何年もの間一緒に旅をした気になるので不思議です。この時の付き合いは、のちのちまで続くことがあります。貴重な時間です。
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…で、調査がうまくいったら、打ち上げです。
うまくいかなかった時も残念会をやってますが…
左:船上ではめずらしいスキヤキ打ち上げ、右:打ち上げ2次会、騒ぎすぎは厳禁ですが。
やはり調査がうまくいったときの打ち上げは格別です。
ほっと一息つけるときです。
その他
- JAMSTEC調査船では飲酒喫煙は可能です。
喫煙は決められた場所で、飲酒はほどほどに。
ただ国内外には禁酒の調査船もあります(ドライシップと呼ぶ、特に米国)。
- 乗船中の食費、シーツ代は下船時に現金(日本円)で支払います。概ね1日1500円くらいです。カード支払いはダメです。それ以外の費用(宿泊費や乗船費用)は不要です。
…以上、JAMSTEC調査船での生活を簡単に紹介しました。あくまで私個人の知識に基づくものですので(2005年10月現在)、実情とは異なる場合がありますが、研究船に興味をお持ちの方々や、これから調査船に乗船予定の方々の参考になれば幸いです。