海底電位差磁力計の組み立て


1. はじめに

海底電位差磁力計(Ocean Bottom Electromagnetometer、OBEMと略される)は海底において磁場および電場を測定する装置である。OBEMには音響式切離装置が取り付けられており、沈降、浮上中や海底に設置されている状態で距離を測定したり、回収時に音響通信によっておもりを解放し、浮上させることができる。これらの電位差磁力計装置、音響式切離装置やそれらの電池はガラス製の耐圧容器(以下ガラス球と記す)に収納され、アルミフレームに取り付けられている。アルミフレームには他に電場を測定するための電極(銀-塩化銀電極)を先端に取り付けた電極アームや回収時の目印となるライトフラッシャーやビーコン発信器も取り付けられている。装置の概観を図1に示す。
※英語版はこちら(ただしサイズは概略)。また1世代前の古いVersionはこちら

図 1.テラテクニカ社製OBEM2005の外観

2. ガラス球の封入


2-1.電位差磁力計装置の封入
 
電位差磁力計用ガラス球には電位差磁力計のみを封入する。ガラス球内部には電位差磁力計に接続する電源用、通信用、電極用の3本のケーブルが取り付けられている。それらを電位差磁力計のコネクタに接続した状態で、ガラス球のN印と電位差磁力計センサーのN印を合わせて、ガラス球に固定する(写真2-1)。写真2-1のようにバンドで固定するタイプの場合にはガラス球の接合面を水平にしておき、電位差磁力計も水平になるよう固定する。電位差磁力計の下や側面に緩衝材として紙おむつ(吸収面を外側にして畳んだもの)を詰めておくと、少量の浸水が発生した時に、回収作業による振動で回路部が海水をかぶる危険性を少なくすることができる。
 
ガラス球の外側から出ている電源入力用、通信用および電極用の水中ケーブルに、それぞれ電源装置(写真では電池球の電源出力)、パソコン(RS232CあるいはUSB)、発信器(信号入力±10mV以内)を接続し、専用の設定ソフトを用いて動作試験を行う(写真2-2)。電位差磁力計の動作確認、磁力計、電位差計、傾斜計の極性確認などを行う。

写真2-1.電位差磁力計の固定

写真2-2. 電位差磁力計の動作試験

写真2-3. ガラス球合わせ目のクリーニング

写真2-4. 接合面の埃などの除去

 
アセトンを含ませたキムワイプなどでガラス球の接合面をクリーニングする(写真2-3)。こするのではなく、拭き取るようにクリーニングする。この時内壁に貼り付けてある合わせ位置のシールなどを溶かしてしまわぬように注意する。クリーニングが終了したら、エアースプレーを用いて接合面に付着しているほこりなどを取り除く(写真2-4)。懐中電灯で照らすと付着物の有無を確認しやすい。
 
ガラス球内のケーブル類をはさまぬように注意しながら、ガラス球を慎重に勘合させる(写真2-5)。真空ポンプでガラス球のバキュームポートから空気を抜いて負圧にする。接合面の上から合わせ目の溝に沿ってブチルゴムテープを貼り付け、カバーの紙テープの上から丸棒などを使ってテープを押し広げる(写真2-6)。こするのではなく押しつけるように押し広げていく。 ブチルゴムテープが十分に密着したら、カバーの紙テープを剥がし、幅広の防食用ビニールテープを3周ほど巻き付ける。最後にステンレスバンドを十字にかける。封入の終わったガラス球をハードハットに収納する(写真2-7)。収納時にはガラス球の接合部ができる限り水平になるように心がける。また磁力計のN方向をハットのN方向にあわせる。

写真2-5. ガラス球の勘合

写真2-6. ブチルゴムテープの圧着作業

写真2-7. 封入作業を終えた電位差磁力計用ガラス球

 

 


2-2. 音響式切離装置と電池の封入
 
電池用のガラス球には音響式切離装置、音響式切離装置用電池および電位差磁力計用電池(写真2-8)を封入する。封入する物品をくみ上げて、バンドでガラス球に固定する(写真2-9)。電位差磁力計の場合と同様に固定する物品の底や周囲に緩衝材として紙おむつを詰める。

写真2-8. 電池球に封入する物品 

写真2-9. 電池球内の固定

 
音響式切離装置回路部(写真上)、切離装置用電池(写真下)、電位差磁力計用電池(回路部の下にある灰色のパック)を電池球に収める。切離装置用の電池のコネクタ(送受信用、切離出力用)を切離装置のコネクタに接続する。ガラス球内部には音響式切離装置に接続するトランスデューサー用と切離装置のスイッチおよび切離電流出力用、また電位差磁力計電池用の3本のケーブルが取り付けられている。それらを切離装置のコネクタに接続する。
 
ガラス球の外側から出ている電源出力用水中コネクタの所定のピンに規定の電圧が出力されているかを確認する。トランスデューサー用、切離装置スイッチおよび切離電流出力用の水中ケーブルに、それぞれトランスデューサー(海洋電子製あるいは日油技研製)、切離装置スイッチケーブル(このケーブルを接続することで切離装置の電源が入る。またこのスイッチケーブルに切離電流出力用の1ピンメスケーブルが2本出ている。)を接続する。音響式切離装置の制御器(デッキユニットあるいはコマンダー)を用いて切離装置の動作試験を行う。スイッチケーブルの切離電流出力用コネクタにテスターを当てて、切離出力についても確認する。 
 
電位差磁力計用のガラス球と同様にガラス球を封入する。

3. 下部台座フレームの組立

下部台座フレームにはOBEMを海底に沈降させるための鉛製のおもりが取り付けられている。回収時にはこの下部台座フレームを切り離して上部フレームのみが浮上する。
 
上部フレームと接触する下部台座の上面や振れ止めの内側にガムテープなどを貼って、フレーム腐食による接合を防止する(写真3-1)。メインウエイト(中央部に取り付ける42kgの鉛板)をスライドさせる塩ビ製ガイドをM8L120ステンレスボルトで仮止めする(写真3-2)。メインウエイトに吊り下げ用のステンレスU字ボルトを取り付ける。メインウエイトの4カ所の穴におもりガイドを通しながら、メインウエイトを台座フレームの上に置く(写真3-3)。おもりガイドの上におもり止め(Lアングル)を取り付ける(写真3-4)。

写真3-1. 下部台座の絶縁処理

写真3-2.おもりガイドの仮止め

写真3-3. メインウエイトの配置

写真3-4. おもり止め

 
下部台座の全体を写真3-5に示す。台座の側面に追加のサブウエイト(4.5kgの鉛板)を適宜取り付けて水中重量を調整する。サブウエイトは最大4個まで取り付けることができる。それ以上に下部台座の重量を増加すると切離部のレバーチップ(写真4-4参照)を破損するリスクを伴う。カタログ上の耐荷重は100kg(静荷重)である。

写真3-5. 下部台座の全体構成