海底電位差磁力計の組み立て手順


4.上部フレームの組立

パレットなどを用いて組み立てた状態で運搬が可能な場合、下部台座の上に上部フレームを載せる。上部フレームと下部台座を一時的に結合する仮止めボルトがあるタイプではこれを用いて固定する。


4-1. ガラス球の取付

ハードハットを止めている8組のM8L40ステンレスボルトの内、3辺の6組を取り外し、フレーム中段の外側から電位差磁力計用ガラス球と電池用ガラス球をスライドさせながら入れる。先ほど外したボルトを用いてフレームに固定する(写真4-1)。電位差磁力計用ガラス球にはセンサーのN方向(測定系のX方向)があるので、事前に方向を決めた上で取り付ける。この取付方向によって、必然的に電極の配置(測定系のN,S,E,W)が決まる。

 
写真4-1.フレームに取り付けたガラス球。手前が電池用ガラス球、
奥が電位差磁力計用ガラス球、上に見えるのは10インチのガラスブイ


4-2. トランスデューサーの取付

電池用ガラス球に取り付けられているトランスデューサー用の水中ケーブルのコネクタをフレーム上部の白いPP板の中央部の穴から出してトランスデューサーと接続する。ケーブルがねじれないようないに注意しながらボルトで固定する(写真4-2,写真4-3)。

写真4-2. PP板中央部に取り付けられるトランスデューサー。
写真は海洋電子切離装置用トランスデューサーで基部はチタン製である。

写真4-3. トランスデューサーの固定
 

海洋電子製の場合には写真のように下側からM6L35チタンボルト6本で固定する。日油技研製の場合にはM6L50プラスチック製ボルト4本(貫通)で固定する。


4-3. 切離ユニットの取付

切離ユニットはメインウエイトをつり上げているシャックルを通したレバーの先端(先端部分だけプラスチック製のレバーチップとなっている。)を電食部のステンレス線が支えている。このステンレス線を切離装置から出力される電流で溶解させてメインウエイト(つまりは下部台座)を解放する。切離ユニットの構成部品を写真4-4に示す。レバーチップ、シャックル、電食部は消耗品である。

 
写真4-4. 切離ユニットの構成部品。だるま型のプラスチック製
ユニットベースにはステンレス製のレバー(先端部はプラスチック
製のレバーチップ)が組み込まれている。右側の円筒形部品が
電食部(正極側)、中央のステンレス製部品は負極側端子

電食部のステンレス線や負極端子、負極ボルトなど切離電流に関連する部品は油分をきれいに取り除いておく。シャックルのねじを固く締めて、インシュロックなどで緩まぬよう固定する。シャックルのボルト側を下にして、シャックルをレバー(てこ)の根元まで通し、ユニットベースのシャックル穴にはめる。レバーを上に引き出し、電食部のU字型のステンレス線にレバー先端(レバーチップ)を通してから、電食部をユニットベースにネジ止めする。この時、ステンレス線がまっすぐにレバーチップに引っ掛かるよう取り付ける方向に注意する。負極端子をM8L120ボルトを使って電食部付近に固定する(写真4-5、写真4-6)

写真4-5. 切離ユニットの組立の完成写真

写真4-6. 切離部(正極)と負極端子 
 

フレーム中段中央に写真4-7のように切離ユニットを固定する。台座フレームが仮止めされている場合にはシャックルとメインウエイトの間にターンバックルを突っ張らない程度に掛けておく。ターンバックルのフック部分には、ビニールテープを巻き付け、解放時にフックが外れて、フレームなどに引っ掛からないようにする(写真4-8)。

写真4-7. 切離ユニットとビーコン・フラッシャーホルダーの取付写真。
写真のホルダーは大洋無線社専用タイプ

写真4-8. 切離接続部 
 


4-4. 先取りブイの取付

海面に浮上しているOBEMを回収するのを容易にするためにフレーム最上部に先取りブイを取り付ける。先取りブイはハードハットに収められた10インチガラスブイで、約5mのロープがフレーム上部の吊り下げ用の丸棒に繋がれている(写真4-9)。投入時、このロープはブイを載せているかご(あるいはバケツ)に収納されており、ブイは先端をフレームと下部台座に挟み込んだ固定ロープでかごに押しつけられている。回収時に下部台座を解放することで、固定ロープが解放され、ブイが5mのロープを伸ばした状態で海面に浮上する。電極アームがあるため船からフレームをとらえることは難しいが、先取りブイはフレームから十分離れているので、これを確保し、つり上げることで、回収作業を容易にすることができる。

 
写真4-9. フレーム上部にセットされた先取りブイ

フレームと下部台座を接続している仮止めボルト(無いタイプもある)を外し、先取りブイの固定ロープの先端(ロープの端を丸めて引っ掛かりを作る)をフレームと下部台座の間に挟む。固定ロープの張り具合はロープの長さなどによって調整する。


4-5. フラッシャー・ビーコン発信器の取付

ビーコン発信器とフラッシャーを固定するPP製のホルダーをフレーム中央部の垂直アングルにM6のボルトで固定する。ビーコン発信器用とフラッシャー用いずれも同じ部品であるが、大洋無線社専用、PSI社専用、3社兼用(NOVATECH社、大洋無線社専用、PSI社専用)の3種類の内のいずれかが添付されている。吊り下げ丸棒が溶接されていない垂直アングルにそれぞれ対角の位置に取り付ける。 

スイッチの付いているNOVATEC社およびPSI社のビーコン発信器とフラッシャーは事前にホルダーにセットすることができる(投入直前に電源を入れる。)。大洋無線社のものは圧力スイッチ(フラッシャーはさらに光スイッチ)しかないので、投入直前にセットする。

  

写真4-10. ビーコン発信器(左)とライトフラッシャー(右)。
写真はNOVATECH社のもの、ホルダーは3社兼用タイプ。
ビーコン発信器のアンテナは未装着の状態


4-6. 切離装置のセットアップ

電池用ガラス球の切離装置スイッチ・切離出力ケーブルにスイッチケーブルを接続し、切離装置の電源を入れる。スイッチケーブルの切離出力正極(COM+ 赤テープ)切離出力負極(GND 青テープ)をそれぞれ切離ユニットの電食部(COM+ 赤テープ)、負極端子(GND 青テープ)に接続する。

船上制御装置あるいはコマンダーを用いて、切離装置の動作確認を行う。電食部と負極端子にテスターのプローブをあてて、コマンド送信時に正常な切離出力電圧が出ているかを確認する(写真4-11)。試験終了後、切離出力をリセットするのを忘れないように注意する。

  

写真4-11. 音響式切離装置の動作確認


4-7. 電位差磁力計のセットアップ

電池用ガラス球の電源出力コネクタとと電位差磁力計の電源入力コネクタを接続し、電位差磁力計の電源を入れる(写真4-12)。コネクタ結合部に力がかからぬように注意しつつ、インシュロックやビニールテープで電源ケーブルをアングルに固定する。

電位差磁力計用ガラス球の通信ケーブル(USBあるいはRS232C)に専用の通信ケーブルを用いて、パソコンに接続する。専用の設定ソフトを起動して、電位差磁力計の動作確認とタイマー設定を行う(写真4-12)。設定終了後、通信ケーブルを外して、ダミーコネクターをはめる。ガラス球の通信ケーブルをハードハットにビニールテープで固定する。

 

写真4-12. (上)電源コネクタの接続。(下)電位差磁力計の動作確認とタイマー設定。


4-8. 電極アームの組立・取付

電極アームのパイプにシンタティックフォームの浮力体を通してから、電極のケーブルを先端から入れて、パイプ基部(白いPP製の補強材が入っている方)のケーブル穴から引っ張り出す。電極に付いているケーブルが短い場合には延長ケーブルを用いる。浮力体は破損しやすいので、取り扱いに注意する。専用のホルダーあるいはインシュロックで電極を先端に固定した後(写真4-13)、浮力体を先端から二つめの穴にPPボルトで固定する(写真4-14)。

写真4-13. 電極の固定。クローバーテック製の電極を縦に取り付けるタイプのホルダー

写真4-14. 浮力体の取り付け

フレーム上部に取り付けられている4個の電極アームホルダーからおのおのセンターの2本のM8L120ステンレスボルトを外す。ホルダーの穴に電極アーム(写真4-15)を差し込み、先ほど外したボルトを差し込んで、4本ともしっかりと締める(写真4-16)。アーム基部のケーブル穴からケーブルを引き出し、フレーム上部PP板の穴に通す。

写真4-15. 組立を終えた電極アーム

写真4-16. 電極アームの取付
 

GND電極がある場合はフレーム中段の適当な場所に取り付ける。電位差磁力計用ガラス球の電極用コネクタに各電極のコネクタを接続する(写真4-17)。

電極ケーブルを適宜まとめて(写真4-18)、電位差磁力計用ガラス球のハードハットにビニールテープで固定する。固定する際には各コネクタの接続部に力がかからぬように注意する。

写真4-17. 電極ケーブルの接続

写真4-17. 電極ケーブルの整理 


写真4-19. 電極ケーブルの固定

5.投入直前の準備

PSI製、NOVATECH製のビーコン発信器の場合はアンテナを取り付けて、電源スイッチを入れる。。PSI製、NOVATECH製のフラッシャーの場合、電源スイッチを入れる。大洋無線製の場合は電池をセットし、この時点でホルダーに取り付ける。電波の発信とライトの点灯を確認する。

メインウエイトと切離ユニットのシャックルを接続しているステンレスターンバックルを締めて、メインウエイトがおもり止めに当たるまで上げる(写真5-1)。この時、必要以上にターンバックルを締め上げると、レバーチップが破断する恐れがあるので、メインウエイトが動かない程度に調整する。

5本の電極の蓋を密閉タイプから穴あきタイプに取り替える。

これで全ての準備作業が終了し、投入作業に移ることができる(写真5-2)。

写真5-1. メインウエイトの巻上

写真5-2. 準備作業が完了したOBEM


写真5-3. 船尾Aフレームで
吊り上げられたOBEM。


写真5-4. 着水したOBEM。このあと、吊り下げフックを開放し、OBEM投入終了となる。