自然電位測定Q&A


はじめに:当サイトの自然電位関連ページ


Q & A

※2013年、ある方から自然電位に観測に関するお問い合わせを頂きました。
 その際のメールでのやり取りに基づいて、下記のQ & Aを作成いたしました。
 (転載の許可を頂いております。ありがとうございます。)

Q. 自然電位測定の際、デジタルテスターは電気店で販売されている普通のテスターでいいのでしょうか?何か特別な機能が備わったテスターが必要なのでしょうか?
A. テスターは量販店で売っている数千円のもので問題ありません。 私は下記の機種相当のテスターを用いています。
PC710(三和電気):http://www.sanwa-meter.co.jp/japan/items/detail.php?id=14
CD800a(三和電気):http://www.sanwa-meter.co.jp/japan/items/detail.php?id=29


Q. デジタルテスタはマイナスの電圧も計測できるものなのでしょうか(つまり、「-○mV」と表示されるのでしょうか)?
A. 通常可能です(それができないデジタルテスターを私は見たことはありません)
なお、学術論文などで自然電位がマイナスに表示されていますが、自然電位は「ある地点をゼロVと仮定したときの地表面などでの電位分布」を示しております。あくまで相対値です。


Q. ペットボトル電極を作る際に石膏を流し込んで固めたとき、ペットボトルと石膏との間にすき間ができて、硫酸銅溶液が漏れ出すことはないでしょうか?
A. 隙間はできます。むしろそれが必要です。石膏自体は硫酸銅水溶液をほとんど通しません。ペットボトルと石膏の隙間を硫酸銅水溶液がすこしずつ通っていき、地面との導通を確保するのです。漏れる量が多いようでしたら、ペットボトルの蓋を閉じて漏れにくいように調整します。(ペットボトル側面の防水シールを忘れずに)。なおペットボトルではなく、塩ビ管を短く切ったものでも作れると思います。


Q. 地質調査会社が使っているかなり上等な電気探査機器は、ステンレス棒を電極にしているようですが、ペットボトル電極の代わりにステンレス棒を使用しても問題ないのでしょうか?
A. 金属棒(銅・ステンレス・真鍮)の電極は自然電位測定には適しません。金属と土が化学反応をおこし、そこで電位が発生(分極)するからです。地面の自然の電位分布を調べるには、銅硫酸銅電極などの「非分極電極」が必要となります。


Q. ペットボトル電極は、何回も使用できるのでしょうか。自然電位を計測した後は、硫酸銅をペットボトル電極からタンクに戻して、次回(翌日以降)再び硫酸銅をペットボトル電極に入れて再使用することはできるのでしょうか。調査が数日間におよぶ場合、日数分だけペットボトル電極を用意しておく必要がありますか。
A. 何回でも使用できます。ただし、ペットボトル電極は壊れやすいので予備をお持ちになることをお薦めします。ペットボトル自体が柔らかい素材ですので → ペットボトルの変形により、石膏とペットボトル壁の間に大きな隙間ができて → 硫酸銅が漏れ過ぎることがあるためです。本格的に調査をなさるようでしたら、ホームセンター等でもう少ししっかりしたプラスチック製ボトルを購入することをお薦めします。このとき、透明ではなく有色のボトルをお薦めします(直射日光が硫酸銅水溶液を温めると、数mV程度、電位差が変化することがあるため)。また測定に際しましては、事前に十分な練習を積む必要があるかと思います。


Q. 3.5リットルの水に硫酸銅140gを溶かして使いましたが、これくらいの濃度でよかったのでしょうか?
A. 濃度については、実は割りといい加減にやっている人が多いです(ちゃんとされている方もおられますが。私も”多数派”の一人です)。経験上、それぐらいの濃度でしたら、硫酸銅水溶液はかなり鮮やかな青色ではないでしょうか? それであれば問題ないと思います。なお硫酸銅水溶液の量・濃度は2本のペットボトル電極でできるだけ同じにする必要があります。このため、大き目のポリタンクに硫酸銅水溶液を作っておき、これを各ペットボトル電極に流しいれるようにしてください。


Q. 電極間の距離はどれくらいが適当なのでしょうか?
A. 電極間隔は細かいほどよいのですが、電極間隔が短すぎると、測定地域をカバーするのに何日もかかってしまいます。電極間隔は、調査対象に合わせて、調整する必要があります。
ここでは、ある自然電位観測計画を例として挙げましょう。


Q. 砂の上にペットボトル電極を置いて計測したとき、デジタルテスターの数値が徐々に大きくなっていき、20分くらい待っても止まりませんでした。別のしっかり固まっている砂地では数値の上がり具合がゆっくりでしたので、おそらく硫酸銅水溶液が砂に染み込むに従って数値が上がるのではないかと思います。このようなケースでは、どう対処すればいいのでしょうか?あくまでも数値が安定するまで待つべきなのでしょうか?
A. これが自然電位測定での最大の問題です。上記で数値が徐々に変わる理由ははっきりしませんが、おそらく、砂地に硫酸銅水溶液が浸透する際に新たに自然電位が発生しているものと考えられています(極小規模の水の流れですが、電極近傍ですので影響が大きい)。長い時間待つのも対策としては一案ですが、測定に時間がかかり過ぎますので、電極を違う場所に移してみてください(1mずらすだけでもグッと安定する場合があります)。それでもダメな場合は以下のいずれか(あるいは両方)を試します。
  1. 砂地を少し掘って(10-50cm)、少し湿った場所を探して、電極を設置する。
  2. 電極の下部を粘土で覆い、砂地へ浸透する硫酸銅を少なくする
粘土は油粘土や紙粘土は避けてください(試したことはないです)。粘土っぽい土は現地で手に入ると思います。これに硫酸銅水溶液を少し加えて耳たぶくらいの柔らかさの粘土状にして、ペットボトル電極の下部を覆っておきます。ちなみに私は「ベントナイト」という粘土鉱物を使っています。
1,2でも電位が下がらない場合は奥の手として、砂地に水を巻きます。ただこれでも電位が安定するのには時間がかかります。


Q. ペットボトル電極は砂の上に置くべきなのでしょうか?あるいは転石の上に置くべきなのでしょうか?砂は地熱と日光で温められて、カラカラに乾いていることが多いです。
A. 転石の上では測定をしないでください。すぐお気づきになると思いますが、測定値が安定しません。硫酸銅電極は、土の中にもともと入っている硫化物イオンを利用していますが、石の上では硫化物イオンが乏しいです。加えて、石自体は水分も含まないので電気抵抗が大きいので、結果として(まるで空中で電位を測定しているかのごとく)測定値が不安定になります。


おしまいに

自然電位は「測定は簡単だが、解釈は難しい」方法として、知られています(当研究室では、自然電位の観測方法の改善と、より定量的な解釈方法の研究を行なっている最中です)。ただし、自然電位観測以外の情報(地質、地下水、地温)などとあわせますと、定性的には解釈が可能です。「まずは試してみる」ということが可能なのも、安価な自然電位観測ならではの特徴です。

また硫酸銅は劇物です。お取り扱いにご注意ください。本ページなどをご覧頂き、自然電位観測を実施した際のトラブルなどに関しましては、当方は責任を追うことはできません。野外調査時には特にご注意ください。