跡津川断層
地震空白域とはなにか?
地震空白域(seismic gap)という言葉を聞いたことがあるだろうか?簡単に言えば、地殻が活発に変形をしている地域にもかかわらず、近年地震活動が全くない地域のことを指す。その一例がアメリカ西海岸を走っているサンアンドレアス断層沿いに認められる(Plafker
and Galloway, 1989)。1989年10月より前は、San Francisco、Loma PrietaそしてParkfieldには地震空白域(Seismic
Gap)があることが知られていた。これらの地域では他の地域よりも微小地震活動が地下深くまで認められる代わりに、浅いところでの地震活動が比較的少ない(特にLoma
Prieta seismic gapでは5kmよりも浅いところの地震はほとんどなかった)。1989年10月17日にはM7.1の地震がLoma
Prieta seismic gapで発生した。このときの本震と余震は、Loma Prieta seismic gapを埋めるように発生していることがよく分かる。すなわち、Seismic
gapでは断層面が固着しており、その周辺に歪みをため込んでいるようである。このような地域では、近い将来大きな地震が起きるポテンシャルが高いといえる。
http://earthsci.org/processes/struct/equake3/EQPredictionControl.htmlより
※余談だが、アメリカの研究者達はParkfieldでM6以上の地震が1983~1993年に起きると予測し、そこに観測網を張り巡らせた。ところがいつまでたっても地震が起きない。そのうちにLoma
Prietaで先に地震が起きてしまった。ParkfieldでM6の地震が起きたのは、予想よりずいぶん後の2004年のことであった(防災科技研,
2005)。また、San Francisco seismic gapではまだ地震が起きてはいないが、前回のサンフランシスコ地震(M7.8)から100年以上が経過している。
※引用文献:
Plafker, G., and Galloway, J. P.(ed.), Lessons learned from the Loma Prieta,
California earthquake of October 17, 1989, U.S.G.S. Circular 1045, 52 pp,
1989.
防災科学技術研究所, パークフィールド地震について, 地震予知連絡会会報, 73, 648-651, 2005.
地震活動空白域の要因を電磁波で探る
日本にも、上記とそっくりのSeismic Gapが存在する。中部日本(岐阜県と富山県の県境付近)にある跡津川断層沿いの微小地震活動は明瞭な不均質分布をしていることが知られている。断層沿いには多くの微小地震が見られるが、断層中央部では地震活動が低下しており、「Seismic
Gap(地震活動の空白域)」が見られている(下図)。この要因としては、断層のクリープ(=地震を起こさずにずるずるとゆっくりすべる)と、断層の固着(=いわゆるアスペリティーになっている)という相反する2つの説が考えられている。
跡津川断層沿いの微小地震分布1996-1999(Ito and Wada, 1999による)
(a) 震央分布。実線は活断層の位置で、矢印が跡津川断層を示す。
(b) 跡津川断層沿いの震源分布
※WAF, CAF, EAF= 西部, 中央部, 東部跡津川断層
跡津川断層を横切る地殻電気伝導度構造
2次元MTインバージョンの結果、地震活動度の高い断層部分では、地下1-2kmの浅部に断層に沿って電気伝導度の高い部分(C1)が見られることがわかった。一方、地震活動度の低い断層部分では、対応する高電気伝導度帯(C3)は深さ1kmよりも浅い部分にしか存在しない。この跡津川断層沿いの高伝導度帯は破砕帯内の流体が主な要因であると考えられる。従って、地震活動度の高い断層部分では断層帯の含水率が高く、地震活動度が低い断層部分では含水率が低いと考えられる。
地殻構造に着目すると、地震活動度の高い断層部分では、断層を境界としての電気伝導度構造構造に変化が見られる。一方、地震活動度の低い断層部分では、断層直下5km付近に低電気伝導度層(R2)があり、断層を跨いで広がっている。低電気伝導度層は地殻内流体を多くは含まず、高い剛性を持つと予想される。
上図: 2次元電気伝導度構造。(a)は地震活動度の高い断層部分(WAF)を横切る構造
(b)は地震活動度の低い断層部分(CAF)を横切る構造。黒い点線は
Iidaka et al. (2003)およびShimada (1996, pers. comm.)によるP波速度構造
(数字は速度)。白丸はIto and Wada (1999)による震源分布。
逆三角形は跡津川断層の地表位置である。
地震活動度の高い断層部分と低い断層部分での浅部および地殻構造の違いから、跡津川断層中央部でのSeismic Gapは断層の固着域(アスペリティー)であると解釈できる 。またアスペリティーは流体(水)があまり含まれないということも示唆される。
このように電磁探査法(MT法)を用いた地殻構造調査により、アスペリティーの要因や、アスペリティーが断層面上のどの辺に分布するかが明らかとなる。従って、電磁探査は、活断層での地震発生の空白域の要因や、将来の活動度予測に役立つといえる。
※以上の成果についてはGoto et al. (2005)をご覧ください。
詳細は業績リスト(査読付)No.14を参照のこと。
地震波トモグラフィとMT法の結果は似ている(場合がある)
活断層などをターゲットとして、地震波探査と電磁気探査の両方を同じ地域で実施した例が増えつつある。奇妙なことに(幸運なことに?)、両者の結果はよく似たパターンを示す。その例を下図に示す。これは跡津川断層を横切る断面での地震波速度構造を、地震波トモグラフィによって求めた例である(Kato
et al., 2006)。図の(a)はP波速度構造、(b)はVp/Vs構造(ポアソン比に対応するパラメータ)、そして(c)は上述の比抵抗構造(A-A'断面)である。三者は互いに似た特徴を示している。特にP波速度構造と比抵抗構造はよく似ている。ということは、2つの独立した探査法をジョイントした解析を行える可能性も示唆される。そうすれば、いままでには分からなかった地下深部の岩石の強度分布や透水係数分布などの情報が新たに得られるかもしれない。
※引用文献
Kato, A., E. Kurashimo, N. Hirata, T. Iwasaki, and T. Iidaka, Imaging crustal
structure around the western segment of the Atotsugawa fault system, central
Japan, Geophys. Res. Lett., 33, L09307, doi:10.1029/2006GL025841, 2006.