-海底熱水鉱床探査
海底熱水鉱床とは?
近年、海底資源に世界中からの注目が集まっている。海底資源の開発は陸上に比べて未知数の部分が多いためにリスクが大きく、新しい技術開発と多くの費用がかかると予想される。にもかかわらず海底資源が注目されている理由は、近年の世界経済(特に中国・インドなどの工業化が急速に進む国々)の成長に伴って、資源需要が拡大しているためである。2008年に起きた世界的な経済危機の影響で原油価格や金属価格は下落したが、その後は回復に転じており、開発途上国の資源需要は今後も拡大し続けると予測されている。
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沖縄沖伊平屋北海域の海底熱水噴出孔。JAMSTEC YK11-11航海において有人潜水調査船「しんかい6500」で潜航して撮影。 |
海底の金属資源については、海底熱水鉱床に大きな注目が集まっている。海底熱水鉱床は、マグマ活動などにより熱せられた上昇してきた地下水が、海底面で海水により急速に冷却された結果、地下水中に溶けていた銅・鉛・亜鉛・鉄などの金属が沈殿して生成された鉱床である。海底熱水鉱床の開発については、世界各国が技術開発を始めつつあり、カナダの企業等はパプアニューギニアの領海などで鉱床探査をすでに開始している。世界6番目の経済開発可能海域面積を誇る日本も、国として新しい探査・開発技術の開発に乗り出し始めている。
海底熱水鉱床の調査では、電磁探査を使った分布調査が注目されている。そのきっかけとなったのが、2008年に発表された調査成果である。
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図:上・中=海底地形図
下・右下(拡大図)=海底地形図に比抵抗情報を載せたもの。赤いほど電気が流れやすい(低比抵抗)
Kowalczyk, P., Geophysical prelude to first exploitation of submarine massive
sulphides, firstbreak, 26, 2008より
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パプアニューギニア沖の海底熱水地域において、ROV(遠隔操作型無人探査機)を用いて、詳細な海底地形の調査と海底面の電気の流れにくさ(比抵抗)の測定を行なった結果、海底地形の起伏の激しい地域(=熱水チムニー分布域)と比抵抗の低い地域がよく対応している。すなわちこの地域に金属鉱床が広がっている可能性がある。このような電磁探査技術によって、海底熱水鉱床の海底面での広がりを把握できるようになってきたわけである。ただし上記探査技術では、探査深度が海底下数m程度に限定されており、海底下のより深いところを探査できる技術が求められている。
伊豆小笠原熱水地域における海底電磁探査
次の技術的ステップとしては、熱水鉱床の海底面での分布情報に加えて、その「厚さ分布」を知るテクノロジーの開発が必要である。現在、日本を始めとして、カナダや韓国で、海底熱水鉱床における電磁探査の技術開発が本格化しており、競争となっている。日本では京都大学や早稲田大学、東海大学海洋研究所が取り組んでいる。
ここで京都大学が開発中の技術について紹介する。人工電流送信器と受信器の距離をある程度(数十m~数百m)離すことができれば、探査深度を深くすることが可能となる。そこで、自律型無人探査機(AUV:Autonomous
Underwater Vehicle)に送信装置を搭載し、海底に受信装置(OBEM:Ocean Bottom Electromagnetometer)を複数設置することで、地下比抵抗構造探査ができるかどうか試みている。この探査法をAUVを用いた人工電磁探査(CSEM:Control-source
Electromagnetic Sounding)=AUV-CSEM探査と呼んでいる。
AUV-CSEM探査の概念図
AUV「うらしま」を用いた探査の様子(水中への投入時の様子)
送信装置搭載の概念図
受信器(OBEM) |
OBEMの投入作業 |
今回開発した人工電流送信装置は、AUV以外にも搭載可能である。実際に、有人潜水調査船「しんかい6500」(下記)に搭載し、沖縄沖伊平屋北海域においても熱水鉱床探査を実施した。これらの調査成果については、現在解析中である。
※以上の成果については後藤ほか(2010)ほかをご覧ください。
詳細は業績リスト(査読無し論文)No.38を参照のこと。