・筑波山SP


筑波山での自然電位観測(Aug.20-Aug.23, 2000)


 山地斜面を地下水が流れると電位が発生することが野外観測や室内実験から知られています。この「自然電位」を測定することによって、山地斜面の地下水流動を推定するという試みを、筑波山で実施しました。筑波山は標高871mです。測定はその北麓の標高130m~780mの範囲で行いました。
まずは山登り。といっても、ケーブルカーを使いました。今回は3名x 2班で、道具一式を携えて山頂に向かいます。道具(1班分)は以下のようです。
  • 電極(4本)
  • 硫酸銅水溶液(1リットル)
  • デジタルテスター(1つ)
  • 銅線(100m)
  • 移植ゴテ、スコップ
  • メジャー
  • 野帳、筆記具、地形図
山頂に着きました。測定に入る前には電極のキャリブレーション(Calibration)を行います。キャリブレーションとは、電極そのものの発生する電位差がどの程度かを調べる作業です。測定途中の随所や測定終了時にもキャリブレーションを実施して、電極に異常がないかどうかを確認します。
キャリブレーションの様子を詳しく見てみましょう。下のように、キャリブレーション時には、電極2本を5~10cmの距離でならべておき、電極間の電位差をデジタルテスター(Digital Multimeter)で記録します。電極間隔が短いため、このときの電位差は0mVになるはずですが、電極の特性によっては0mVになりません。5mVを越えるようであれば、電極が異常なのでスペアと交換します。
どの電極を使っても電極間の電位差が大きいときは、地下に発生している電位差が影響しているかもしれません。この時は、2本の電極の位置を入れ替えてみて、キャリブレーションを行います。こうすることで、地下に発生している電位差が0mVかどうかのチェックも出来ます(2本の電極を入れ替えたとき、測定電位差の符号が反転すれば、地下には電位差が発生しています)。ちなみに上の写真ではデジタルテスターを2台使用しています。このときは2班に分かれて自然電位測定を行うため、デジタルテスターを2台使いましたので、2台のテスターの測定値にずれがないかどうかをチェックも行いました。

次に電極について紹介します。下は電極の拡大写真です。「銅-硫酸銅非分極電極」という電極です。これは自作(愛知教育大型)でペットボトルを利用しています。原型は高知大型です。作り方は…

  • ペットボトルの底を開け、石膏でふさぎます。
  • ペットボトルの蓋などには細い穴を開けて、銅の針金(銅線)を通します。蓋に開けた穴は銅線を通した後で浴室用コーキング剤や粘土などで埋めてしまいます。
  • ペットボトルには硫酸銅水溶液を入れます。
  • ペットボトルの底(石膏とペットボトルの隙間)から硫酸銅が少しずつ染み出すしくみになっています。じわじわと漏れるように、蓋を閉める強さで調整します。
  • ペットボトル電極の作成方法はこちらを御覧ください。
こうすることで、土壌→硫酸銅水溶液→銅線→テスターというように、電気的なつながりが形成されます。

写真左も銅-硫酸銅電極(筑波大型)。愛教大型との違いは、石膏の変わりにポーラスカップを用いていて、土などにはさすことが出来ることです。その他の点は同じです。灰色の円筒部の中には銅線と硫酸銅水溶液が入っています。
腐葉土が厚くある場合は、電気的接触が不安定なため、腐葉土層をシャベルである程度取り除かないといけないのですが、筑波大型は土に突き刺すことが出来るので、その必要がありません。一方、愛教大型は硬い地面のうえで測る場合に適しています。(硬い地面だとポーラスカップが刺さらないため)

実際の自然電位測定の様子

それでは、筑波山で行った自然電位測定の様子を見てみましょう。まず片方の電極を土に接して設置します。草や腐葉土のように空気を含む層が多いと電気的な接触も悪くなるため、地面を少し掘る必要があります(写真程度です)。コンクリートのような硬い地面も、電極の底と地面の間に隙間が出来ることが多いため不向きです。測定には土は必要です。

電極をテスターのプラス側に接続します(テスターのワニ口クリップが地面にくっつかないように注意)。





歩きます。
リールからケーブルを延ばしながらひたすら歩きます
次に100m程度のケーブルを用意します。ケーブルの片端をテスターのマイナス側につなぎます。もう1本の電極とシャベルをもったら…

100m歩いて、ケーブルが伸びきったらその場所に電極を設置して、ケーブルと電極を接続します。電極の設置の仕方は上の写真と同じです。これで
【プラス側の電極電極→テスタ→ (100mケーブル)→マイナス側の電極】のように接続されました。このときのテスターの値が100m離れた2地点の電位差です。

広い地域の自然電位分布を測定するには、次の2つの方法があります。



一日歩けばお腹もすきます。で、こんなかんじです。


お疲れさまでした~

※測定結果に関しましては下記の英語論文をご参照ください。
  http://obem.jpn.org/files/article/Goto_IJG_2012.pdf